東京地方裁判所 昭和45年(借チ)38号 決定
〔主文〕1 申立人が、相手方に対し、本裁判確定の日から六か月以内に金一七二万円を支払うことを条件に、別紙目録記載の賃貸借条件の目的な堅固な建物所に変更する。
2 前項により目的が変更された場合には、賃貸借期間を右金員支払の日から三〇年間に、賃料を右金員支払の翌月から一か月金三、八二四円にはれぞれ変更する。
〔理由〕一 本件申立の要旨
1 申立人は、昭和三六年一月一日笹川禅光から別紙目録中の目的土地(以下「本件土地」という。)を、非堅固建物所有の目的、期間の定めなく賃借し、その後、相手方が本件土地を譲受け賃貸人たる地位を承継した。
2 申立人は本件土地のうえに木造瓦葺二階建居宅(各33.05平方米)の建物(以下「本件建物」という。)を所有していたが、昭和四五二月二五日焼失し、そのあとに一時的に家屋番号四六番七木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建物置(9.93平方米)を所有している。
3 ところで、本件土地附近は、右契約締結当時、木造建物が多数存在していたが、その後、建替えに際しては堅固な建物が建てられ、商業地域、準防火地域に指定されているうえ、本件土地の面積が必らずしも広くないこと等を考慮するならば、現に堅固な建物所有を目的とするのが相当となつた。そこで、申立人は、本件土地上に鉄筋コンクリート造地上五階(各57.48平方米)塔屋一階(8.60平方米)付居宅を建設すべく、相手方に対し、借地契約中目的の変更を求めたが協議がととのわないので、本件借地契約の目的を非堅固建物所有から堅固建物所有に変更する裁判を求める。
二 相手方の答弁
笹川禅光は、申立人に対し本件土地を賃貸したことはない。
三 当裁判所の判断
1 申立人は、昭和三六年一月笹川禅光から本件土地を賃借したと主張し、相手方はこれを争うので判断する。
本件で取調べた資料によれば、申立人は、笹川禅光の娘の夫であるが、昭和二六年ごろ、笹川禅光から同人の所有であつた本件土地(登記簿上は笹川恭助名義)を無償で使用することを許され、本件建物を建築し居住していたこと、その後、申立人が、右建物を他に賃貸し、市川市に転居したことが契機となり、前記笹川禅光から土地使用の対価を求められ、昭和三六年一月分から一か月3.3平方米当り金五〇円の金員を、同四月以降は金六〇円に値上げされた金員を支払つたが、昭和四〇年一月分以降は本件土地の所有権の帰属に争いが生じたため、笹川禅光の長男の子供笹川芳太郎に支払い、その後、裁判上の和解により、本件土地が笹川禅光の所有であることが確認され、更に同人の同族会社である相手方に譲渡されたため、前記対価の受領を求めたところ、受領を拒絶されたため、申立人において供託中であることを認めることができ、右事実によれば、申立人は、昭和三九年一月以降前記対価を支払以降は、本件土地を笹川禅光から期間の定めなく賃借し、相手方がその賃貸人たる地位を承継したものというべく、したがつて申立人は本件土地の適法な賃借人である。
2 ところで、前記資料によれば、本件土地は、地下鉄日比谷線入谷駅より陸羽街道通称昭和通りを東方約四〇〇米の所に位置し、前記賃貸借成立当時においては、非堅固建物所有を目的とする契約が通例であつたが、現在、附近一体商業地域、準防火地域に指定され、なお、木造モルタル塗りの建物が大部分であるが、中小の堅固な建物も次第に多くなり、土地の価格の騰貴による土地の利用効率の必要および都市の不燃化の要請上、今後建替えに際しては漸時堅固な高層建物が一層増加するものとみられ、右事実によれば、本件土地は、「附近の土地利用の変化」に準じた「その他の事情の変更」により、現に借地権を設定する場合は、堅固な建物所有を目的とするのが相当とされるに至つたと認めることができる。
他に、本件において右目的変更を不当とすべき事由はないので、本件申立は後記の条件のもとに認容すべきである。
3 附随の処分について検討する。
鑑定委員会の意見の要旨は、「申立人に借地期間三〇年の場合は金二、〇二六、〇〇〇円、六〇年の場合は金二、九四四、〇〇〇円の財産上の給付をさせ、地代を月額金三、八二四円(3.3平方米当り金二〇〇円)に増額するのが相当である。給付金の算定は目的変更による調整額として借地権価格の差を求め、これに借地期間の延長による調整額として更新料を基礎とした額を加算する。すなわち本件土地の更地価格は3.3平方米当り金六〇万円、合計金一一、四七二、〇〇〇円となり、堅固、非堅固の借地権価格の差は更地価格の一〇ないし一五%であるが、本件については一五%とする(金一、七二〇、八〇〇円)。借地期間の延長分は、更新料を三〇年の場合は借地権価格(更地価格の八〇%)の一〇%、六〇年延長の場合は、二〇%とし、存続期間の延長期間相当分を乗ずると三〇年の場合は金三〇五、九二〇円、六〇年の場合は金一、二二三、六八〇円となる」というにある。
ところで、借地条件を堅固な建物所有の目的変更に伴い、借地期間を三〇年延長するのを相当とするが、これに加え、現実に堅固な建物の建築が可能になり、建物の耐用年数の延長による朽廃時期の延長、明渡時の建物買取価格の増額をもたらし、賃借人に対し、土地利用関係を安定させる利益を与える反面、賃貸人に土地返還の期待を減じさせる不利益を与えるのであるから、この利害を調整するため、申立人に財産上の給付を命ずべく、右の利害は、いずれも借地権の価格の形成要素であるから、右給付額は、堅固、非堅固な借地権価格につき、慣行的割合が存する地域にあつては、これを標準として当該具体的借地権価格の変動を評価して決すべきである。これを本件についてみるに、資料によれば、本件土地附近の木造建物の借地権割合は更地価格の八〇%であるが、本件における借地残存期間、賃貸借の経緯を考慮し、右割合を七五%とし、目的の変更と借地期間の延長により九〇%に上昇すると認められ、申立人に対し、右差額に相当とする更地価格の一五%の金員である金一七二万円(千未満切捨て)の支払を命ずる。なお、借地期間を現借地権価格の減額要因として考慮し、今後の延長が堅固建物所有の期間として標準的な範囲であるかぎり、期間延長の不利益は上記借地権価格の差額の中に包含されており、重ねて更新料に基づき算定する必要はない。
賃料は、使用効率の増大に伴いこの際近隣相応額に改訂すべく、鑑定委員会の意見のとおり月額金三、八二四円(3.3平方米当り金二〇〇円)に増額する。
(筧康生)
目録
1 目的土地 東京都台東区入谷二丁目四六番七
宅地 63.20平方米(19.12坪)
2 成立 昭和三六年一月
3 賃貸人 申立人
4 賃借人 相手方
5 目的 非堅固建物所有
6 期間 定めなし
7 現地代 一か月金一、二〇〇円